対談「里親しっかりサポート事業のスタートにあたって」

2018年11月5日

埼玉県少子化対策局こども安全課 課長 西村 朗
一般社団法人埼玉県里親会   理事長 石井 敦

里親が里親を支援することの意義

石井:今年度埼玉県からご提案いただいた、里親が里親を支援する「里親しっかりサポート事業」がスタートし、いよいよこの秋から具体的に動き出しました。多くの先輩里親さんたちが支援に手を挙げてくださり、大変だったことや乗り越えてきたことを何とか次の世代に伝えたいと、県内各地で盛り上がってきています。本日はこの画期的な事業に至る背景や今後の展開について、西村さんとお話しできればと思っております。

西村:里親会の皆様におかれましては、日頃より里親委託の推進にご尽力くださり、ありがとうございます。もともと里親委託の推進は児童相談所が中心になって、里親のリクルートや未委託里親への支援、受託後の支援に取り組み、ここ10年間でかなり里親委託を拡充してきました。しかし、児童相談所だけでは、虐待対応もあり、今後里親委託を大幅に増やしていくには、限界があると考えました。里親委託を推進していくにはどうしたらよいかと考えるなかで、里親会の力を借りない手はないと思いました。里親さんの支援は里親さんがやるのが一番で、適切な支援ができるはずと考えました。子どもとの関係が不調に終わる里親さんの中で、委託後1年以内の方が非常に多いと聞いていました。受託直後でなかなか子どもが安定しない時期の里親さんのサポートも里親会にしていただこうということになりました。これは不調を防止するという意味でも、非常に効果が上がるんじゃないかと。こんな考えで、この事業を里親会にお願いするに至りました。

石井:ありがとうございます。これまで里親会が各地域のなかで、里親が里親を支援してきた、支えてきた、寄り添ってきた積み重ねが評価されたんだと大変うれしく思います。自分自身を振り返っても、先輩里親さんから子育ての楽しさや苦労を乗り越えた話をうかがって、励まされてきました。今回、この事業のご提案をいただいた時は、「よしっ、来たか、これはやるっきゃない!」と思いました。私たち里親、あるいは里親会の力を信頼され、事業を委託していただいたということについては、大変、先見の明があったと受け止めています。県内外からも注目が集まっています。

未委託里親への支援が委託率向上の鍵

西村:里親委託率を上げるためにはまず登録里親の人数を増やすこと、そして、登録いただいた方々にできるだけ多く子どもを受託していただくことが必要です。現在、登録里親の内、実際に子どもを養育している方の割合である受託率が34%くらいです。受託率を上げていくために、里親会に未委託里親の支援、受託直後の里親の支援をしっかりお願いしたいと思っています。

石井:国立武蔵野学院が開催した、全国児童相談所関係者対象の研修会に昨年出させていただきました。多くの都道府県の児童相談所の方々が抱えている悩みの一つが「未委託里親になかなか手が回らない」ことだと知りました。未委託里親さんへの委託に向けたアプローチは、どこの児童相談所も抱えている課題なのだと思いました。

支援の質を高める

石井:事業の特徴の一つは、子育てをしている先輩宅において、未委託里親の支援が行われることです。集合研修や施設見学に加えて、OJT(注)の要素を採り入れた訪問をメインにすることで、未委託里親に里親制度の理解を深め、覚悟をもっていただきたいと思います。未委託里親さんには、委託直後からの子どもの変化を実感するなど、先輩里親宅であんな場面があったな、あそこはそんな工夫をしていたなと、多くのヒントを持って帰っていただけると思います。プライベートな空間での密度の濃いコミュニケーションに期待します。もちろん独善的な押し付けは良くないですが。また、委託直後の方に対しては、先輩里親は良き聞き手になっていただきたく、横浜市の里親会長のご紹介で澤村直樹先生を講師に招き、傾聴の研修を必須にしてスタートしました。さらに、訪問支援の実績豊富な静岡市里親会から「複数での訪問」の効用を助言いただくなど、他の先進地域の間接支援も受けています。9月15日には愛泉寮(加須市にある児童養護施設)をお借りして、全体研修を開催しました。こちらでは、未委託里親と支援者の先輩里親が一堂に会し、島田里親支援専門相談員から愛着の講義を受け、社会的養育の子どもたちを養育する前提条件を身につけてもらいました。

(注)OJT(On-the-Job Training):座学などの方法ではなく、実践を通してトレーニングを積むこと。未委託里親宅、委託直後里親宅を先輩里親が訪問したり訪問されたりして、相互に養育の実際を見て学ぶこともOJTととらえることができる。

西村:当初企画に無かった愛泉寮での全体研修を里親会から御提案をいただき、実施できたことで、未委託里親さんの意識が高まったと思います。それから、支援をする里親さんは、当初我々が考えていたのはベテラン里親さんで、一人なり二人なり里子を育て上げた、年齢も一定以上の方というイメージでした。まだ受託から間もない若い方が、自分の今までの経験をダイレクトに伝えたいと考えてくださり、幅広い年齢層から多様な里親さんが支援にまわってくれたのを知って、うれしく思います。

石井:未委託里親さんの訪問希望先には乳幼児を養育中の家庭が多く、こうした方々から協力を申し出てうただき大変助かっています。先輩里親にとっても、自らの養育を振り返る良い機会になっています。うまくいった点、反省している点、工夫した点、課題を整理して考えることができるのです。

児童相談所、支援する里親、支援される里親、それぞれの理解が重要

西村:未委託里親さんへの委託の決定は児童相談所の仕事なので、 この事業を進めるにあたって、現場の児童相談所担当者にこの事業の趣旨を理解してもらうことが大事です。そこで、こども安全課が里親担当者会議を開いて、この事業の趣旨や進め方を説明し、各児童相談所の担当から意見を聞きました。期待する声と同時に「先輩里親の未委託里親への支援はうまくいくのだろうか」 「うまくいく人もいるだろうが、うまくいかなくてトラブルになった場合はどうするんだ」と、少し心配の声があったことも事実です。そういう意見も踏まえて、里親会との意見交換を重ねさせていただき、研修で事前に支援者と被支援者の双方が心構えや基本的な知識を学ぶ機会を得ることでしっかりとした事業実施の準備ができたと思っています。

石井:どういう失敗があるのか、どういったことが途中でトラブルとして起こりうるのか、可能な限り予想して考えておく、ただし、予期せぬことが起きるかもしれない、起きたことには速やかに情報を共有して最善の方法で修正を加えていく、そしてそれが蓄積となって、受託前後の里親支援体制が形作られていくと考えています。

未委託・交流中・委託直後の里親の心に寄り添って

石井:現在、26組の未委託里親がこの事業の被支援者としてエントリーしておられます。本日現在、延べ27回、未委託里親が先輩里親宅を訪問しています。未委託という立場で子どもと交流中の方をどうフォローしていくか、ということについても考えなければなりません。子どもと交流している時期は、里親が孤独になることがあるのです。能力がないと思われれてしまう、ダメな里親のレッテルを貼られてしまうのではないかと、児童相談所に不安を伝えられないのです。こういう時に相談できる相手こそが、先輩里親です。この事業への取り組みにより極力不調を少なくしていきたいです。

西村:訪問した里親宅で未委託里親さんが実際に子どもを目の当たりにしながら、素朴な質問ができたり、不安や疑問が解消できたり、心構えができたりすると伺っています。1組の未委託里親さんが4つの里親家庭を訪問することもあると聞きました。いろんな家庭のいろんな養育の場面を見て、未委託里親さんなりに、ここは自分に合うなとか、ここは違うなとか、こういうスタイルでやっていこうとか、取捨選択ができる、引き出しを増やすことに役立っていると思います。これはなかなか今までの児童相談所の支援だけではできないことです。

石井:各地域里親会も含めて、この支援事業が来年、再来年と根付いてステップアップしていけるよう広報にも力を入れていきたいです。切れ目の無い支援によって、里親家庭で安心して育つお子さんたちが増えていくことを期待しています。被支援者を支えるネットワークが強力になり、また被支援者同士も繋がることにより養育力が高まっていけば、それがまた子どもたちのためになると考えています。

西村:この事業で得られる効果は非常に大きいと期待しております。里親委託率の向上、最終的には社会的養護を必要としているお子さんたちの幸せのために、今後ともお力添えをいただきたいと思います。

石井:日々の養育の傍ら協力いただいている実行委員・エリアリーダーと頑張っていきます。本日はありがとうございました。

平成30年10月18日、埼玉県浦和合同庁舎にて収録。

左:西村課長 右:石井理事長

西村課長

石井理事長